透きとおる夢
今、起こった事をありのまま綴るわ……
フレデリカはこの日の出来事を、そっと日記に認めながら思い出す。
◆ (姉・フレデリカ…非登録キャラクター)
キャラの変化を綴るSSもどき 。
ハティが変だった。
……ああ、ハティというのは私の弟の事よ。 私はハティやハーティと略している事が多いの。
お世話になっている書庫と宿ではハーヴィやハーさん。
アルバイトを経験させて貰っている喫茶店ではハーヴェだったかな?
折角、私が付け、兄までもが倣って呼ぶハティという愛称は、女性っぽいという事で他所では完全に封印されてしまっているらしい。
お姉様がこんなにも可愛く略して呼んで可愛がっているというのに、実にけしからん。
………しまった。 これでは出オチというヤツではなかろうか。
仕切り直そう。 ハティが変だった。
帰ってきて早々、後ろ手に閉めた玄関ドアに背を預けてしゃがみ込んだのだ。
これは自慢だけど、私の目は裸眼で2.0を超えるであろう程度には良い。
二階の廊下から玄関を見下ろせるんだけど、何か顔が赤い気がする。 動揺しているっていうか……。
そこで、自室に戻るのを止めてハティの傍に駆け寄ったの。
「ハティー?」
膝を折って視線を合わせながら声を掛けたら、腕を引き寄せられて抱き締めてきたから、ぎょっとした。
禁断の何かが始まってしまうのかしら!? なんて、まあ………ちょっとも妄想しなかったと言ったら嘘になるくらいには動揺した。
「やだっ、もう何? ………。 ちょっと? ……もう、泣いててもわっかんないでしょ?」
デコピンを何度も軽くしながら問いかける。
……声すら出さずに泣いているもんだから、どうしたものかと心が挫け掛けたわ……。
「と………友……っ」
やっと口を開いたと思ったら、答えになってない。
ヤダもう。 どうしてくれようかしら、この子。
「とも? なぁに?」
「友達、出来た……っ!」
「あら。 やぁっだ! 良かったじゃない!!」
塞き止められた声を絞り出す感じ。
言葉に出したら子供みたいに声上げてべそかいてるから、ホントにもう。 困った子。
まあ、それだけ嬉しいのは解るけどね。
母さんは気にしていなかったけど、近所じゃ、『愛人の子供を引き取って育てるなんて、奥さんはご立派ね』とか囁かれて。
親達が悪く言うからってんでしょうね、子供も余所余所しくて。 友達らしい友達なんて、今まで出来なかったんじゃないかしら。
私と兄だって、最初のうちは母さんに聞いたっけ。 『どうしてそんな子、弟にしなきゃなんないの? 冗談じゃない!』って。
それで、子供に罪は無いとか諭されて。
ハティとは仲良く出来るようになったけど、母さんを裏切ってた父さんへの反抗期が変わりに始まったのよねー。
懐かしい………。
「ごめんねハティ」
髪は撫でてあげるとふわふわで。 引っ込み思案の臆病者で。 私と同じように体温があって。 心もあって。
ただ片親が違ったって、それだけで、あの頃の私は陰で酷い事を口にしていたから謝った。
そういえば………もしかして、こんなに正直に泣いてるのを見るのって何年振り?
母さんが……。 ………。 あの時も泣かなかった。 そういえば。
気付いて、またびっくりしちゃった。
――紙面を滑らせていた羽ペンをコト、と傍らに置いて、回想しながら綴っていた日記を閉じた。
困ったような、ホッとしたような複雑な表情を、星の瞬く夜空へ向ける。
(「嬉し泣き、かぁ………」)
理由が何でも、泣いてくれたのだ。 目の前で。
私を励まそうと涙を堪えてくれていた彼が。 悲しみではなく喜びで。
(「ありがとう」)
――顔も知らない誰かへと、心の中でポツリと呟く。
泣き顔なんかではなくて、その人には。
心からの笑顔を贈ってね。
どうか、どうか。
幸せに。